株式会社ハラダ精工
3. 取り組みの内容(1)社長の評価と障害者本人の自己評価取材の中で東社長が何度も口にした言葉、それは「とにかく明るい人ですから」である。筆者も同感するところ大である。 それ以外に社長から見たAさんは次のような特長を持っている。 ・ 仕事の「のみこみ」がとても早い ・ 手先がたいへん器用である ・ 当事業所で使用する機械の全てに関し、操作方法その他に精通している ・ 図面を正確かつ迅速に読むことが出来る ・ 非常に微妙かつ繊細な感覚を持ち合わせ、機械では決して代わりのできない、人間の手作業に頼るしかない仕事をこなすことができる ・ 何より「ものづくり」が非常に好きである 一方、Aさん本人の自己評価はこうである。 ・ 几帳面である ・ きれい好きである ・ 後片付けが苦にならない ・ 「ものづくり」が好きである (2)障害者に対する職場教育Aさんは現在40代半ば。職歴を振り返ると、自動車メーカーの製造ラインで8年余り働いた経験を皮切りに、製造業の現場一筋である。 立派なキャリアと職人の腕(技術)を持つに至ったのは、「ものづくり」が好きであるという本人の性格はもちろん、常に向上心を持ちながら、これまで誠実かつ真摯に仕事に打ち込んできたからに他ならないと思う。 いくつかの取材先で実際に見てきたように、そしてこの障害者雇用事例でも数多く紹介されているように、きちんと育成していけば、企業に欠かせない戦力となることの一例である。 職場の安全衛生の保持上、必要な職場教育は、主として東社長が手話で行っていて、聴覚障害のある従業員が働いている職場でよく見かけるパトライト(パイロットランプ)は今のところ設置していない。 ![]() 隅々まで整理整頓、清掃が行き届いている工場内
![]() 穴あけ作業中のAさん
(3)コミュニケーションについて東社長は手話ができるため、毎朝の朝礼の内容や業務上の伝達事項等については、漏らさず社長自ら本人に伝えている。また、二人で一緒にいるときは社長が通訳を務めている。 筆者がAさん本人に取材を行った際も、社長が自ら通訳を務め、取材はたいへんスムーズに運んだ。目の前で繰り広げられる、二人の手話による会話を見ていて、日頃のコミュニケーションの深さと濃さが見て取れた。 一般社員との間では筆談がメインであり、かたことの手話とジェスチャーがこれに混ざる。また、前記3の(1)にあるように、本人が図面を読めるため、業務上は図面だけで内容が通ずることも少なくないとのことである。 聴覚言語障害者とのコミュニケーションツールの一つとして、携帯電話の電子メールがよく利用されるが、ここではそれに制約が生じている(P社のみが通話エリア内で、他社は通話エリア圏外である)ため、利用度はあまり高くない。 そのための工夫として、近くだが手は届かないといった距離にいる他の従業員に呼びかけたい場合、あるいは逆にAさんに呼びかける場合は、エアガンで圧縮空気を吹きかけてこちらを振り向かせることも少なくないという。 ![]() 向かって右 東 和良 代表取締役社長
向かって左 Aさん(重度一級聴覚障害者) こうしてみると仲のよい兄弟のようでもあるが、東社長によると、勤務するようになってしばらくしたころ、Aさんの表情が曇りがちな時期が続いたらしい。 それが職場内におけるコミュニケーション不足によるものであることを見抜いた社長は、一生懸命手話を勉強し、Aさんとのコミュニケーションを深めることに努めた。 「手話はどこで勉強されたのですか。」という筆者の問いに、「NHK教育テレビの手話番組で覚えました。あとは表情や口元や身振り手振りで・・・・。正式なもの(手話)でなくても、その気になれば自己流でも通じるもんです。」と社長。まことその通りである。 また、コミュニケーションをさらに密にする目的と、社長不在時の通訳として、新入社員に手話のマスターを命じている。 (4)未曾有の不況を乗り切るために~「モノ作り」から「モノ創り」へ~米国のサブプライムローンに端を発した世界同時不況は、当事業所にも大きな影を落としている。 東社長は、こんなときこそ将来に向かっての種まきが大切だと訴える。と同時に、生き残るために、思い切ってこれまでのスタイルを変える必要もあると説く。 その具体策の一つ。従来は限られた業界から注文を受け、それに沿って製品作りを行ってきた、言わば受身の経営であった。今は、これまで取り引きがあった業界だけにこだわらず、さまざまな分野にこちらから製品を提案していく積極的な経営、思いもよらなかった場所で、自社が持つノウハウを活かした製品を活用してもらう、新たな需要の発掘が不可欠だという。 アイデアを出し合い、製品をイメージし、それを基に図面を引き、製品化して売り込む、単なる「モノ作り」ではなく、より創造性が必要な「モノ創り」への転換を図るのだという。その一翼を担うのが、旺盛な好奇心、優れた技術、そして豊富な経験を持つAさんに他ならないと、社長は期待している。 |